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アメリカの西太平洋戦争計画と自衛隊の変質

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アメリカの西太平洋戦争計画と自衛隊の変質
―用田和仁元陸将「南西諸島の防衛」(『日本の国防』70号)を読む―        

自衛隊の戸惑い
 陸上自衛隊の最高位を勤めた用田(もちだ)和仁元陸将は『日本の国防』70号(2014年7月)に、「南西諸島の防衛」という講演録を発表した。同講演録によれば、用田元陸将は、現役時代は「日米の固い鎧を着る」という考え方で自衛隊を強化していたが、米軍のエアー・シー・バトル(2010年)、オフショアー・コントロール(2012年)、ウォー・アット・シー-ストラテジー(注)を見て、「日本の考えている南西の防衛とアメリカの考えは一体か」と疑問をもつようになったと言っている。

 加えて、オバマ大統領が海軍大学に「中国を刺激するような論文を書くな」と苦言を呈していることを紹介して、アメリカは中国と本気で戦おうとしていないのではないかとも書いている。

 用田元陸将はこのような日米の考え方の不整合性に戸惑い、動揺し、旧来の「日米一体となった南西の防衛」戦略から転換を模索しているようだ。用田元陸将のいわんとするところは何か、検証してみよう。

アメリカの西太平洋戦争計画
 まず、布施哲(『米軍と人民解放軍』著者、T.X.ハメス(元海兵隊大佐、米国防大学の研究所上級研究員)、トシ・ヨシハラ(米海軍大学准教授)、ジョセフ・ナイ(元米国防次官補)らの論文・発言を参考にして、アメリカの西太平洋戦争計画について確認しておく。

①布施哲
 2010 年の国防計画見直しでエア・シー・バトル(ASB)がはじめて登場した。布施哲(『米軍と人民解放軍』2014年)によれば、ASBにもとづく米軍の戦いを「(アメリカによる中国包囲→)中国からのミサイル反撃→グアム・嘉手納の航空機やミサイル射程内の空母を射程外に退避→反撃までの間、自衛隊が第1列島線の防衛ラインを死守し、中国軍の西太平洋への進出を食い止める→米軍による反撃」と想定している。

 さらに、米軍が戦力を分散化したあと、オフショア・バランシング(アジア太平洋での前方展開プレゼンスを撤退させ、地域の安全保障は域内各国の取り組みに委ね、アメリカは死活的国益にかかわる場合のみ選択的に関与する)に転換し、そのまま米軍が日本列島に戻ってこない「ハシゴ外し」もありうるとしている。

 これにたいして、布施哲は用田元陸将と同様に、自衛隊がハシゴを外されないために、いかにして米軍を巻き込むのかが重要であるとしている。

②T.X.ハメス
 T.X.ハメスはASBの「費用対効果」に疑問をはさみ、2012年に「オフショアー・コントロール」を提案した。これは中国の海上貿易を阻止し、経済消耗戦という形をとり、中国の領空内への侵入はおこなわないというもので、①同盟国の軍備の強化、②距離が離れた位置での海上封鎖、③「第一列島線」の内側での海洋排他圏の確立、④「第一列島線」の外側で海上封鎖を強めるという戦略である。

③トシ・ヨシハラ
 2011年に発表されたトシ・ヨシハラの論文でも、①中国とインドの台頭により、マラッカ海峡での衝突が予想され、②日本、韓国、グアムに展開している米海軍基地はマラッカ海峡から遠く、③在日米軍基地は中国の短距離弾道ミサイルの射程距離内にあり、沖縄基地の有効性が減少しており、④兵力の域内均一分散、作戦の継続性・残存性に優れているオーストラリアを重視するとしている。

④ジョセフ・ナイ
 また、2014年12月8日の「朝日新聞」はジョセフ・ナイ元米国防次官補が「中国の弾道ミサイル能力向上に伴い、固定化された基地(注:嘉手納基地など)の脆弱性を考える必要が出てきた」「(米軍普天間飛行場の辺野古への移設は)長期的には解決策にはならない」と語ったと報道した。

米・日による中国包囲
 以上のように、アメリカの戦争目的は西太平洋の権益確保であり、中国との必要以上の消耗戦を避け、米軍の犠牲を極小にして、目的(中国との取り引きも含む)を達するという戦争計画である。

 東アジアの不安定化が日米の権益確保に起因しているにもかかわらず、用田元陸将はいきなり中国の「軍事的冒険=平成の元寇」を仰々しくあおりたてて、日本による戦争の「正当性」を語ろうとしている。

 用田元陸将は中国が「第1列島線(九州-沖縄-台湾-フィリピン-ベトナム)、第2列島線(小笠原諸島-サイパン-テニアン-グアム)に囲まれている」とし、海洋進出を阻む日米に戦争をしかけようとしていると主張し、「中国の野望を軽く見てはいけない」「平成の元寇が非常に近いから、本気で準備しなければならない」と戦争準備と排外主義を煽っている。

自衛隊のアメリカ不信
 ところが、用田元陸将は、日本列島(第1列島線)が主戦場になれば、「アメリカは第1撃を避けるために、空軍はグァム、テニアン、サイパンに後退する…空母も第2列島線以遠に下がる」と見ている。またアメリカ軍内外には日本列島(第1列島線)が戦場になっても核戦争になるから踏み込まない方がよいという議論があり、日本(自衛隊)はハシゴを外され、見捨てられるだろうと想定している。

 すなわち、用田元陸将によれば、米軍はエア・シー・バトル(ASB)やオフショアー・コントロールにもとづいて、距離感をもって中国と対峙しており、日本による対中国戦争挑発に巻き込まれまいと警戒している。アメリカには自衛隊と心中するという考えは毛頭なく、すでに2011年7月に、米豪両軍は在日米軍基地が攻撃を受けた場合を想定したASB訓練をおこなっている。

 一般的に、日米安保(集団的自衛権)によって日本はアメリカの戦争に巻きこまれるから、集団的自衛権に反対するという意見が多く見られるが、用田元陸将は米軍の戦略見直しに対応して、自衛隊がハシゴを外され、孤立しないために「日本の戦争」にアメリカを巻きこもうと考えているようだ。さらに、「日本の戦争」にアメリカを巻き込まねばならない理由は、国連憲章に規定されている敵国条項も関係している。

戦争法を止めよう
 安倍政権は衆議院で安保法案(戦争法案)を強行採決し、参議院でも強行採決(もしくは「60日ルール」を悪用して、衆議院で再議決)しようとしている。日本はアメリカ以上に好戦的姿勢でアジアに臨んでおり、私たちはアジアはもちろん、世界の人々ととも戦争法案を握りつぶさねばならない。

 戦争法案にたいする反対運動が世代、性別、民族を越えて高揚し、安倍の支持率が急落し、これを挽回するために、尖閣諸島や日本海で軍事的緊張を作り出して、排外主義的世論を操作しようとしている。安倍政権を倒し、戦争法を阻止しよう。

(注)ウオー・アット・シー-ストラテジー:中国本土への攻撃を局限しつつ、戦いを海洋に限定して中国海軍中枢の水上艦と潜水艦に対して決定的な打撃を与えうる能力を持つことにより、効果的に戦争を抑止する。

参考論文
「南西諸島の防衛」(用田和仁元陸将『日本の国防』70号2014年7月)/「自衛隊、第2の沖縄戦を計画」(『反軍通信』第301号2015年7月) /「在豪米軍強化に関する一考察-ヨシハラ論文を読んで」(海上自衛隊幹部学校 関博之2011年)/『米軍と人民解放軍 米国防総省の対中戦略』(布施哲著2014年8月)/

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