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学ぼう、そして向きあおう

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学ぼう、そして向きあおう

 ホームページ「原子力安全研究グループ(http://www.rri.kyoto-u.ac.jp/NSRG/index.html)」に、「軍縮問題資料」(1999年5月号)に掲載された今中哲二さんの『原発事故による放射能災害―40年前の被害試算』が掲載されている。ぜひとも原文を読んでいただきたい。

▽瀬尾さんの災害評価計算
 今中論文の中に、瀬尾健(1994年逝去)さんのことが書かれている。瀬尾さんは、伊方原発1号炉(電気出力56万kW)の災害評価計算をおこなった。計算結果は、伊方原発で炉心溶融・格納容器破壊事故が起きると、原発周辺で約5000人にも及ぶ急性死者が発生し、高濃度の放射能汚染は風下100㎞以上に及ぶ可能性を示していた。

 2011年3月11日、福島原発事故は炉心溶融はしたが、偶然に助けられて格納容器の爆発的破壊を免れ、幸運にも瀬尾さんの予想を裏切ることになった。とはいえ、事故から3年半が過ぎても、原子炉をコントロールできず、放射性物質は垂れ流され、周辺住民への犠牲が継続している。
 今中さんの主張に沿って、1960年代の被害試算について要約する。

▽原子炉立地審査指針
 1957年に「核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律」が制定され、原子力発電所を建設するには、国の安全審査を受けて設置許可を受けることが義務づけられている。1964年に原子力委員会が「原子炉立地審査指針」を決定し、その基本的目標として、「最悪の場合には起るかもしれないと考えられる事故の発生を仮定しても、周辺の公衆に放射線障害を与えないこと」「重大事故を越えるような技術的見地から起るとは考えられない事故の発生を仮想しても、周辺の公衆に著しい放射能災害を与えないこと」と定められている。

 日本の原発はすべてこの「立地審査指針」をみたしており、起るとは考えられないような事故があったとしても周辺公衆にさしたる被害はもたらさないと国が保証していたが、福島原発事故が起きたのである。この点だけを見ても、国の原発政策は破綻しており、一切の原発を廃炉にするべきである。

▽原子力損害の賠償に関する法律
 一方、1961年に制定された「原子力損害の賠償に関する法律」があり、「原子炉の運転等により原子力損害が生じた場合における損害賠償に関する基本的制度」を定めている。第6条では「原子力事業者は、原子力損害を賠償するための措置を講じていなければ原子炉の運転をしてはならない」、第7条では「1事業所当り300億円(法制定当初は50億円)を損害賠償に充てることができる責任保険契約の締結」を定めている。

 さらに、第16条では、「政府は、原子力損害が賠償措置額をこえた場合には、原子力事業者に対し、損害を賠償するための必要な援助を行なう」と定められている。つまり、原発を運転する電力会社は、事故に伴う損害賠償のため300億円の保険に加入し、事故の規模がそれを越える場合には政府が面倒をみる、という法律である。

▽原発事故の被害試算
 日本で最初の原発は、イギリスから輸入し、1966年に運転を開始した東海原発である。東海原発の導入にあたって英国側は、「原子炉で事故が起こった場合には、英国政府は一切責任をもたない」「原子力発電はまだ危険がともなう段階なることを再認識されたく…」と申し入れてきたという。

 そこで東海原発で事故が起きた場合の損害賠償とその保険制度をどうするかが問題になり、事故が起きた際の被害見積もりを、科学技術庁の委託を受けた日本原子力産業会議が実施した。1960年に「大型原子炉の事故の理論的可能性及び公衆損害に関する試算」と題する全文244ページの報告書ができあがった。項目を挙げると、A対象原発と周辺状況、B放射能放出パターン、C気象条件、D拡散と沈着の計算、E被曝量の計算、F人的被害区分と賠償額、G物的損害区分と損害額である。

 試算結果はあまりにも大きな被害を示していたため、当時原賠法の審議をおこなっていた国会には一部が報告されたのみで、全体はマル秘扱いとされた。原産報告の概要が一般に明らかにされたのは1973年であった。

▽被害規模の試算結果
 1000万キュリーの放射能放出の場合、事故被害の様相が、放出条件と気象条件によって大きく変化する。死亡・障害者数がもっとも大きいケースは、低温・揮発性・粒度小の放出で逆転・雨無の場合で、死亡720人、障害5200人となっている。逆転層がある場合、地上近辺の放射能雲が拡散されず、濃い濃度のまま遠方まで達する結果、人的被害が大きくなる。

 損害額がもっとも大きいのは、放出条件が低温・全放出・粒度小で気象条件が温度逓減・雨の場合で、3兆7300億円と途方もない額になっている(1960年の日本の国家予算は1.7兆円で、2.2倍)。温度逓減の場合放射能は拡散するが、その分汚染面積が広くなり立退きや農業制限の面積が大きくなり損害も巨大となる。10万人の早期立退き、1760万人の退避・移住、15万平方㎞に及ぶ農業制限といった数字に匹敵するようなことは、戦争にともなう壊滅的被害しか思い浮かばない。

▽警鐘に真摯に向きあおう
 福島原発事故は原子力エネルギーに依存している私たちの社会への警鐘である。被害総低額3兆7300億円は当時(1960年)の日本の国家予算(1.7兆円)の2.2倍である。先般発表された2016年度の国家予算は102兆円であり、その2.2倍の224兆円の被害が見込まれるのだ。1986年のチェルノブイリ事故で最大の放射能汚染を受けたベラルーシでは、その被害額を国家予算の32年分と推定している。

 国家でさえも成り立たないくらいの被害を想定しなければならない原発は即刻廃炉に着手すべきである。

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