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「官邸ドローン事件」について

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「官邸ドローン事件」について
【経過】
04月09日 ドローンを官邸に向けて飛行
04月22日 首相官邸屋上で発見
04月24日 小浜市在住の元自衛官(40歳)Aさん出頭→逮捕
05月15日 威力業務妨害罪で起訴
06月03日 発炎筒改造、火薬所持容疑で再逮捕→火薬取締法違反(無許可製造)で追起訴
08月13日 第1回公判 無罪主張(威力業務妨害に当たらず、再稼働反対の表現活動)
10月30日 第2回公判 松宮孝明立命館大学教授証人尋問(威力業務妨害は不成立)

【Aさんの主張―「ゲリラブログ参」】
  「川内原発の再稼働までもう間がない…我が小浜市にとって他人事ではない」「小浜市にも過去に原発建設計画があったが猛反対。でも周りにこんだけ原発作られたら意味ない」「小浜市や若狭町に再稼働への同意権はない。…被害がでると知ってて動かした加害者。だが事故ると直撃コースだから避難することになる。…避難先での偏見、差別、非難」「親族、友人、ご近所…原発に関わる人間が多い。…田舎自治体を原発マネーに依存させることで、言論統制がなされている」
  「デモで再稼働は止まらない…暴動にもならない。…再稼働に反対する活動ではなく、再稼働を止める活動をしなくては。…再稼働を止めるためにはテロをも辞さない。再稼働すれば加害者、なら再稼働を止めて加害者の方がいい」「どうすりゃ原発止まるんだ」
  「政、官、財が完全癒着…鉄のトライアングル。総括原価方式という詐欺をグルでやっているのか。電力モンスターシステムは麻薬…国民が麻薬を取り上げなくてはならない…官邸前で再稼働(反対)を叫んでも麻薬は取り上げられない」「日本の原発…チンパンジーたちがライターで遊んでいるような印象を受ける…飼育員もチンパンジーか」「(川内原発再稼働差し止め仮処分の)申立人23人のうち10人程度が申請を取り下げた…再稼働のじゃましたら金を取るぞと一般人を脅す…そして事故ったら税金投入」
  「川内より先に高浜もありうる」「高浜原発に関しては舞鶴が非常に気の毒で申し訳ない」「高浜原発工事、町議側が受注。別の町議も原発工事受注。周辺自治体を危険にさらして私腹を肥やす。とても解り易い悪役だ」「高浜原発3,4号機再稼働差し止め仮処分が決定…4/22の川内原発差し止め裁判のほうが気になる…あれだけの事故を起こして、国民の過半数が反対しても止める方法は司法だけか。変われない仕組み…自浄作用は働かない」「平気で人を殺せる関西電力が相手…今後どうなるか解らんけど」

【検察の主張(マスコミ報道)】
 (1)男性は放射能マークが印刷されたシールを貼った容器と発煙筒などを装着したドローンを操縦し、首相官邸屋上に落下させて官邸の業務を妨げた威力業務妨害罪。(2)ドローンに取り付けた発炎筒について遠隔操作で電気着火できる状態に無許可で改造した火薬類取締法違反(無許可製造)。
 被告の起訴内容は、4月9日午前3時40分ごろ、東京都港区の駐車場から、放射性物質を含む土砂を入れた容器や発炎筒を載せたドローンを遠隔操作で首相官邸の屋上に落下させ、4月22日に発見した官邸職員らの業務を妨害した。

【被告弁護人の主張(マスコミ報道)】
 (5/16起訴時) 弁護人は「原発再稼働に反対する表現行為で、違法性はない」と述べた。起訴内容についてA被告は、官邸上空までドローンを飛ばしたことは認めたが、「落下は確認しておらず、威力業務妨害になるかもわかりません」と述べた。
 (8/13第1回公判) 弁護側は、A被告の行為を政府が推進する原発政策に対する「憲法上保障されている平穏な請願行為」などと主張した。A被告の行為を原発政策への批判のための行為とする弁護側は、放射性セシウムが検出されたドローンが官邸屋上に落下してから発見まで約2週間かかったことなどについて「被告の主張が正鵠を得たものであることが明らかになった。(原発への)抗議の意思表明としてなされた行為であり、外形のみで判断すべきではない」と主張した。
 (10/30第2回公判) 立命館大法科大学院の松宮孝明教授(刑法)は、威力業務妨害罪の成立には「人を怖がらせ、意思を制圧するような行為があったといえることが必要」と解説し、「ドローンの大きさなどから見て、人を畏怖させる行為とは解されない」「担当者にとっては通常の仕事の範囲内で、業務が増大しただけだ」と述べた。

【法曹関係者の見解(インターネット検索)】
秋山直人弁護士(要約)
(1)首相官邸の上空で模型航空機を飛ばすことは、高度によっては航空法に違反する場合がある。同法で禁じられた「航空機の飛行に影響を及ぼすような行為」に該当する可能性がある。しかし、その高度のめどは、およそ標高250メートルとなっていて、それ以下なら「航空法上は」ドローンを飛ばす行為が規制されていない。
(2)今回の行為は、ドローンを首相官邸屋上に「侵入させた」事件と言えそうです。しかし、建造物侵入罪(刑法130条)は、正当な理由なく、「人」が建造物に侵入した場合に限定されており、侵入したのが「ドローン」だと成立しません。
(3)公務執行妨害罪は、職務を執行している公務員に対して、暴行または脅迫を加えた場合に成立する罪です。今回は「ドローン」によって、警備に当たる公務員に暴行が加えられたわけではありませんので、やはり成立しません。
(3)今回の「ドローン」には「放射能マーク」がついていたとのことですので、威力業務妨害罪(刑法234条)が成立する可能性があると思います。「威力」とは「人の意思を制圧するに足りる勢力を用いること」と定義されています。放射能マークは、「危険な物質を運搬しているのではないか」と、人に思わせるものといえます。そうすると、「威力」を用いて、首相官邸の警備という業務を妨害したといえる可能性があると思います。

菅原直美弁護士(要約)
(1) 男性の弁護人は男性の行為について、原子力発電所の再稼働に反対する、憲法で保障された表現行為だとして無罪を主張されているようです。
(2) そもそも、威力業務妨害罪というのは、誰かの意思を制圧できるような勢いを示すこと(これが「威力」)で、誰かの仕事の邪魔をすることを罰する犯罪です。そうなると、今回の事件は男性が行った「ドローン」の操作が、誰の意思を制圧できるような勢いを示したことになるのかが、まず問題になります(男性側は2週間誰も落下に気付かなかったと主張している点は、今回の行為が「威力」に当たらないという主張だと思われます)。最高裁判所の判例では、現実に誰かの意思を制圧していなくても「威力」にあたるとされているので、男性の主張はこの判例を踏まえた上で説得力を持つ必要がありそうです。
(3) 男性の行為が「威力」に当たるとしても、男性は原子力発電所の再稼動に反対する表現として行ったのだから、表現の自由(憲法第21条)として許されるのではないかとの主張も問題となります。表現の自由として許される場合には、男性の行為が「威力」に当たる場合でも、違法ではない行為として扱われ、無罪となります。
(4) 今回の事件を受けて、「ドローン」の飛行規制法案が作られたり、航空法が改正されようとしたりしている動きからは、そのような規制がつくられる前に行った男性の行為を、むりやり威力業務妨害罪で犯罪として扱うことは、罪刑法定主義に反するのではないかという問題提起もできるでしょう。
(5) 私たちは個人として尊重され、自由が与えられている存在であること、それが原則だと思いませんか。この「個人の尊重」については、憲法第13条ではっきりと保障されています。個人の自由を、国がどのような場合に制限(今回は刑罰を課されるのか)できるのか、「ドローン」裁判は、そんな大きくて大切な問題をあらためて問いかけているのではないでしょうか。

中尾司弁護士(要約)
 初公判で、弁護人は「(1)ドローンを飛行させたが落下は確認しておらず、「威力」にあたるのかも分からない、(2)落下してから約2週間も気付かれておらず、業務妨害にあたらない、(3)原発再稼働反対の表現や請願にあたり、憲法上認められた行為だ」と主張しています。
 このうち、「落下を確認していない」は、犯罪事実の認識がなかったこと、すなわち「故意」がなかったとの主張と思われます。「威力にあたるかわからない」及び、「業務妨害に当たらない」は、被告人がしたとされる行為が威力業務妨害罪の定める犯罪の成立要件=構成要件にあたらないとの主張でしょう。また、最後の主張は、仮に被告人の行為が犯罪の構成要件にあたるとしても、許された行為として違法性がないとの主張だと思われます(違法性阻却事由といいます)。
 ある人を罪に問い、処罰を加えるためには、その人の行為が刑法その他処罰を定める法律の構成要件にあてはまり、その行為が違法ではないとされる理由がなく、さらに、その人に責任を問えない事情もなくて、かつ、処罰を妨げる理由もないというすべての条件がそろう必要があります。

【評論家などの見解】
大石英司(軍事サスペンス作家)(要約)
(1) 兵器級として見た時に、いわゆるクアッド・コプターは必ずしも有利ではない。ドローンが活躍するのは、人質立てこもりのような事件での警察の状況偵察程度であり、軍隊が必要とする、長時間の撮影には向かない。ものは運べないし、スピードが出ないから撃墜も容易だし、何より航続距離が短すぎる。
(2) ドローンは、何かの武器、たとえば今回使われた放射性汚染物質を詰めた「ダーティ・ボム」や爆弾、あるいは化学兵器を搭載して何処かに突っ込むには全く不向きである。まずペイロード(搭載重量)が決定的に足りない。現状では、市販されているホビー・クラスのドローンのペイロードは、ほんの数百グラムに過ぎない。
(3) デモンストレーションという意味合いを除いては、市販されているドローンを、テロ行為に使っても効果はほとんど見込めない。その程度のドローンの使用を規制することにはさほどの意味はない。
(4) 今回、汚染土を用い、それが危険物質であることを誇示したせいで、威力業務妨害が成立することになった。現実的には、都条例で、一定エリアの飛行を罰則付きで禁止する、軽犯罪的な扱いが妥当だ。
(5) 仮にドローンが空中を飛んで、標的に接近していることがわかったとしても、これを撃墜するのが困難だ。そこまでして防がねばならないほどの危険は、市販ドローンにはない。
(6) 誰が撃ち落とすのか、という課題もある。ドローンの所持や利用を法律で規制しても、戦車も対空機関砲もミサイルも持たない警察には撃墜できない。兵器を用いての撃墜は自衛隊の役割となる。

【私たちの態度】
心情的理解
 中嶌哲演さん(僧侶)は「福島の水や土を使用していることに意味があり、福島事故が収束していないなか、原発の再稼働が許されるのかというメッセージがあるのだろうと思う」(毎日新聞4/25)、小沢洋一さん(南相馬・避難推奨地域の会)は「毎時3・8マイクロシーベルトでも、国は避難指示を解除して住民を帰還させようとしている。1マイクロシーベルトで大騒ぎしていることとの矛盾を感じる。官邸と福島の違い、二重基準なのか」(北陸中日新聞4/29)などと、この事件の背景にある福島原発事故被災者の切り捨てと再稼働強行を批判しています。

挑発者論
 ところが、石川県平和運動センターは、「官邸『ドローン』は、運動を停滞させ妨害する何ものでもなく、犯罪行為に等しいものと言えます。今後、これを期に反原発運動に対する『弾圧』『情報管理』が強まることが予想されます」と声明しましたが、典型的な保守主義で、挑発者論です。
 真剣に原発の再稼働を止めたいという人々のなかには、様々なベクトルがあると思いますが、自分達の運動以外は認めないという狭い思考です。
 このように考えると、フランスレジスタンスも、ヒットラー暗殺計画・未遂事件も、尹奉吉の上海爆弾事件も、李奉昌の桜田門天皇暗殺未遂事件も「運動を停滞させ、妨害する犯罪行為」であり、弾圧を引き寄せる挑発者だとして、権力と一体になって排除することになります。

実害も違法性もない―報復弾圧
 Aさんの行為を検証すると、まず第1には実害がありませんでした。落下してから2週間も気付いていません。また積載されていた砂の放射能はフクシマの現状と比べても、逮捕・起訴するほどの危険な量ではありません。
 次に、現行法律上から考えると、(1)ドローンを飛行させたが落下は確認しておらず、「威力」にあたらない、(2)落下してから約2週間も気付かれておらず、業務妨害にあたらない、(3)原発再稼働反対の表現や請願にあたり、憲法上認められた行為だという法曹関係者の見解もあります。
 下地真樹さん(阪南大学准教授)は「今回のケースでは、男性は自ら出頭し、証拠隠滅の恐れも薄いように思う。逮捕や拘留は見せしめ的にも感じる。少なくとも、そう感じる市民感覚は大切にしなければ」と話しています(北陸中日新聞4/29)。
 さらに、軍事サスペンス作家の大石英司さんによれば、今回の行動に使用した「ドローン」はそもそも兵器としては不向きで、デモンストレーション程度の効果しかありません。
 まさに、今回の逮捕・起訴は権力の職権濫用に基づく報復弾圧以外の何ものでもありません。

私たちの態度は
 警察による不当弾圧を弾劾します。官邸ドローン事件は人民に向けた無差別攻撃ではなく、原発再稼働を強行する首相(首相官邸)に的を絞った攻撃です。福島原発事故によって、数10万の人々が被曝し、住む地を追われ、被災者の多くは生活再建のめども立たない状況に置かれています。ドローンに運ばせた毎時1マイクロシーベルトの放射性物質は福島原発事故由来の放射性物質であり、「威力妨害罪」に問われるとすれば、東京電力と政府であり、その責めを負わさねばなりません。
 安倍政権の原発再稼働によって、第2、第3のフクシマを生み出すおそれがあり、原発再稼働の危険を警告する官邸ドローン事件は原発再稼働反対運動(行動)の範疇にあります。Aさんの行動には実害も、違法性もありません。原発反対運動が人民による多様な実力闘争の扉をこじ開けることを怖れた政府・権力による卑劣な「報復」です。
 もちろん、原発再稼働に反対する人々のなかには、官邸ドローン事件を支持する人もいれば、支持しない人もいます。しかし、権力側の感覚と言葉でAさんを批判することだけは避けるべきだと思います。

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