１９３２年４月２９、３０日『陣中日誌』第一次上海事変における第九師団軍医部
｢１５年戦争 極秘資料集補巻５」【金沢市立玉川図書館蔵】
四月二十九日 上海
一、天長節ナリ午前九時ヨリ新公園ニ於テ観兵式ヲ挙行セラル午前十一時頃終了ス
一、午前十一時三十分頃ヨリ官民合同ノ祝賀式典ヲ同所ニ開催 陸海軍将校同相当官参列ス 式ハ河端委員長（居留民団行政委員長）ノ式次ヲ以テ始マリ次ニ村井会長（総領事）ノ祝辞アリ 次テ会衆一同君カ代ヲ合唱シ将ニ終ラントスルヤ突如一大爆音ト共ニ壇上ニアリシ白川軍司令官、野村第三艦隊司令官、植田師団長、重光公使、村井総領事河端行政委員長及書記長悉ク傷キ大混乱ニ陥リ遂ニ式典ハ中止ノ已ムナキニ至レリ 犯人タル一鮮人現場に於テ直ニ捕ヘラレシカ兇行ノ動機不明ナルモ恐ラク思想的背景ヲ有スル者ナルへシト言フ
負傷者ハ直ニ現場ニ於テ応急処置ヲ施シ軍司令官植田師団長ハ衛生部員護送シ自動車ニ依リ兵站病院ニ送院ス 負傷ノ状況概要左ノ如シ
白川軍司令官 頭部顔面躯幹四肢ニ亘ル大豆大乃至粟粒大ノ浅キ爆弾破片創ニシテ左頬部ノモノ最モ重ク相当ノ出血ヲ伴フ
植田師団長 左足尖挫滅創、右足?挫創 其他左前胸上部、肩胛部、上膊、両側大腿全面等ニ十数個ノ大豆大乃至粟粒大ノ爆薬破片創アリ 左足尖ノモノ最モ重ク切断ヲ要ス
野村司令長官 右眼爆創ノ外全身ニ前記ノ如キ爆弾小破片創
重光公使 右下腿複雑骨折其ノ他前記ノ如キ爆弾小破片創
村井総領事 前記同様ノ爆弾破片創
河端委員長 胸腹部爆弾破片創ニシテ最モ重症ナリ
書記長 軽症
以上ノ外在留邦人、陸海将兵ニ少数ノ受傷者アリタルモ微傷ナリ
白川軍司令官、植田師団長ハ入院後直ニ手術室ニ移シテ処置ヲ加ヘ師団長ハ左足ヲ「リスフランク」ヨリ離断セルカ手術ノ経過極メテ良好ナリ
一、軍命令ニ依リ衛生隊真田二等軍医（武雄）第四野戦病院水野三等軍医（忠）本日ヨリ兵站病院勤務ヲ命セラル
一、第一野戦病院西一等軍医（正中）ヲ陸戦隊医務室ニ遣ハシ野村司令長官ノ病症ヲ診察セシム一、軍医部長ハ軍軍医部長ト同行 野村司令長官、重光公使共他ヲ見舞ヒタリ
…略…